慶應義塾大学文学部(フランス文学専攻)を通信教育課程で卒業したときの経験をもとに、文学のレポートの書き方について書いてみることにします。
文学のレポートのポイント:テーマを見つけること
おそらく、文学のレポートを書き慣れていない方が一番戸惑うのは、作品分析ではないでしょうか。
例えば、日本文学で「『伊勢物語』の成立について」という課題が出たら、誰が、どんな目的で作成し、どんな過程を経て完成したのか、という感じで論を展開しようとか、『伊勢物語』に関する文献や、日本文学史についての本で『伊勢物語』の項を参考して書けばいいんだな、という発想は得られると思います。でも、漠然と「『○○(作品名)』について論じなさい」ときたら、何について書けばいいの!?ということになってしまうのではないでしょうか。
大学のレポートというのは、その課題について見出した疑問点を、手に入れた資料をもとに自分なりに解き明かすことが求められているわけですが、まずはそのテーマを見つけるのが難しいんですよね。…でも見つかると楽しいので、ウンウン唸りながらひねり出しましょう(笑)。
ということで、そういうレポートを書く手順の一例を紹介したいと思います。
その1、原典を精読しましょう。
原典を読むだけでテーマが見つかるなんて、これは稀だと思ったほうがいいです(笑)。ワタクシの場合、「近代ドイツ小説」は数少ないラッキーなケースでした。「『グリム童話』について」、ということだったので、とりあえず借りて来て、一話目「かえるの王さま」を読みました。
ある王女が泉に鞠を落としてしまいました。そこへカエルがやってきます。「一緒に食事して、そしてベッドで寝てくれるなら、拾ってきてあげる」 王女は承諾し、カエルは鞠を拾ってきてあげますが、王女は約束を破って、カエルを置き去りにしてしまいます。事情を聞いた王様は、王女に約束を守るように言い、カエルは王女の寝室についていきます。しかし王女は、カエルを壁に叩きつけ…すると、カエルは王子様の姿に戻り、二人は結婚して幸せに暮らしたのでした。
これ明らかにおかしいでしょ(笑)。王女は約束を破ったのに、何故ハッピーエンドなの!?ということで調べてみたら、日本とドイツでは、動物との関わり合い方が違うこと、キリスト教の影響が大きいことが分かり…、という展開で、「大変充実した内容のレポート」とのお褒めの言葉をいただきました☆ 一話しか読んでないのにテーマが見つかるなんて、超ラッキー☆ でも普通は次のステップに進みます。
その2、比較しましょう。
疑問点、共通点や相違点を見つけるには、比較対象が必要です。↑の例でも、日本とドイツで比較しましたよね。よって、同じ作家、もしくは同時代の他の作品も読むと、いろいろと気づくことが出てくるはずです…全集で、いわゆる名作をたくさん読みました☆ 例えば「フランス文学概説」では、モーパッサンの『女の一生』について書くために、『ベラミ』や、バルザックの『ゴリオ爺さん』を取り上げました。すると、論説にも説得力が出てきます☆
ちなみに、レポートを書くとき、他国の作品や、違うジャンルの作品と比較するのは避けたほうがいいと思います。あくまでも、その科目についての理解ができていることを示すのがレポートですから、話題を広げすぎず、その分野を掘り下げることに専念しましょう。しかし、試験でよほど書くネタに困ったとき(笑)や、卒論では、知識があることをアピールするのもひとつの手です。例えば、ロマン主義がテーマなら、フランス、ドイツ、イタリア、日本を比較してみるとか。取得単位が増えてくると、当然ながら使えるネタも増えてきて、逆にまとめるのが大変です(嬉しい悲鳴)。
ちなみにワタクシは、文学部の卒論のテーマとして、アルベール・カミュの『カリギュラ』と『異邦人』を取り上げました。『異邦人』は、「太陽が眩しかったから」と人を殺してしまうことで有名ですが、『カリギュラ』では、ローマ皇帝カリギュラが、しきりに「月がほしい」と言います。太陽と月、何か関係あるのかな?と思って調べてみたら、実は『シーシュポスの神話』『異邦人』『カリギュラ』は三部作になっていることが判明したんですね。
『シーシュポスの神話』は不条理について書いたエッセーで、その不条理に直面したとき、無力な一般人はどんな反応をするのか、というのが書かれたのが『異邦人』で、権力ある皇帝はどんな反応をするのか、というのが書かれたのが『カリギュラ』だったのです。しかも、『カリギュラ』は日本ではマイナーな作品だったので、卒論のテーマとして面白い!と教授がおっしゃってくださり、とにかく比較に徹するという卒論を書きました。
…ちなみに、ワタクシは小栗旬さんのファンで、たまたま主演舞台『カリギュラ』を見に行ってこの作品と出逢い、観劇中に卒論のテーマにできるかも!?なんて考えたりしたので、ヒントはどこにあるかわからないものです(笑)。
その3、その作品の先行研究を読みましょう。
レポート課題に出されるような作品には、それまでに数多くの研究がなされています。よって、それらを読んでいると、レポート課題の出題意図が分かってくるはずです。同じ方向性にありつつ、新たなテーマを見つけましょう。ここでいい閃きを得ることができたら、合格できたも同然です☆
例えば、「国文学」のテーマは、『万葉集』についてでした。『万葉集』って4500首もあるのに、一体何について書けばいいの!?全部読まなきゃいけないのかな?と途方に暮れてしまいそうになりましたが、参考文献を読むうちに、「雪月花」を最初に取り上げたという大伴家持の歌に出逢い、雪と月と花にはどんな意味があるのか、何故その3つでなければならないのか、他の歌ではどう詠まれているのか、などについて論じることにしました。
…ちなみに、4500首全てに目を通して「雪」「月」「花(桜、梅)」が出てくる歌に分類しましたよ。そして、それぞれにどんな意味があるのかを記し、比較。
という感じで、テーマが決まったらいよいよレポートを書き始めるわけですが、その際にもいくつか注意事項があります。
その4、読者を意識して書きましょう。
読んでくださるのは、大学の先生です。つまりその分野の専門家です。よって、当然ご存じであろうことは、書かなくても大丈夫です。例えば、「中世英文学史」で、アーサー王伝説について書いたとき、レポートの冒頭で、アーサー王にまつわる作品の系譜を紹介をしてしまい、失敗しました(汗)。それよりも、キャラの分析のほうに力を入れるべきでした。「前置きはいらないので、いきなり書いてください」とおっしゃっている先生は多かったですね。
その5、参考文献を上手に使いましょう。
一番最初に、「疑問点を自分なりに解き明かす」ことが重要と書きましたが、独りよがりでは困ります。よって説得力を持たせるために、それを後押しするような先行研究を探しましょう。ワタクシは、レポート1本に対して、大体10冊弱の参考文献を使っていました。ま、正直、原典を分析することで説得力を持たせることもある程度は可能でしょうが、全く新しい観点を発見した場合でも、それまでの先行研究を読んで、その発見に至ったはずですし、上手に組み込んで論説を展開してくことが重要だと思います。
その6、形式には気をつけましょう。
脚注の入れ方、引用の仕方、などにはルールがあります。ただし、いくつかのバージョンがあり、かつ、国によって、また添削者によって、微妙に違うので厄介です(汗)。一番厳しかったのは、英文学かな?例えば「125ページから、128ページまで」と書きたいときには、”pp. 125-28″ のように、ピリオドの後にはスペース、とか、終わりのページは下二桁でいいとか、イチイチチェックが入っていたのですが、フランス文学では、”pp.125-128″が好まれるようです。
他には、「漢文学」のスクーリングを受けたとき、講師の先生から、国文学のレポートや答案を書くときには、用紙を90度回転させて、縦書きにするようにと言われました。それ以降、国文学系のレポートは全部縦書きにしていたのですが、試験で、問題用紙にあらかじめ問題文が横書きに印刷してあるときには、そのまま横書きで解答を書いていました…いろいろ謎(汗)。
ちなみに、「西洋史概説I」のレポートを書いたとき、歴史のレポートでは、「~と思う」ではなく、客観的事実だけを書くようにとのコメントが入っていました。文学のレポートでは、こういう解釈もできるのではないか?という「考え」を書くことが大切だと思っていたし、またそういう書き方に慣れていたので、目からウロコでしたね。
また、文学部卒業後、今は法学部で学びを続けているのですが、「内容が評論っぽい」とか「抽象的すぎる」とか、「大学のレポートを書きなれていらっしゃらないご様子」とか、講評欄に書かれたことがあります。一口に大学のレポートと言っても、学部ごと、分野ごとにお作法が違うので、その道の文献をたくさん読み(インプットして)、同じような形式で書ける(アウトプットできる)ようになることが理想です。
という感じですが、少しはお役に立てましたでしょうか?
大学のレポートは、テーマを広げすぎず、鋭くビシッと問題点を指摘しながら、論理を展開していくことが大事だと思います。
ちなみに、この記事の初出は2017年なのですが、2022年の現在でもたくさんの方に閲覧していただいているようなので、若干加筆修正を行いました。…文学部は不人気な時代なのに、世の中にはこんなにも文学のレポートを書いている方がいらっしゃるんだと、感心しきりの毎日です(笑)。頑張ってください!(2022/7/18)
私は歴史学専攻で、文学作品についてレポートを書くことが初めてだったので、とても参考になりました。ありがとうございます!
コメントありがとうございます。頑張ってください!