小説&ドラマ:平野啓一郎『空白を満たしなさい』

もとからタイトルは知っていたのですが、先日Kindle Unlimitedからおすすめで出てきたときに初めて読みました。そのあまりの衝撃ゆえに、ドラマも見てみたら、ますます深みに…。という、ワタクシにとって近年稀に見る衝撃作となった、この作品を。

 

-あらすじ-

ある日徹生(てつお)が目覚めると、生き返っていた。彼は3年前に転落死していたはずであったが、何故か生き返っていた。自宅に帰ると妻と幼い息子がいたが、てっきり亡くなったものと思っていた二人は混乱する。そして徹生自身もまた、転落死する直前の記憶がなく、どうして死んだのか、その空白を埋めるために行動を始める。

 

-タイトルの絶妙さ-

まずは、このタイトルが秀逸すぎて、感心しきりでした。徹生が亡くなっていた3年間の空白、徹生自身の記憶の空白を埋めるために、登場人物たちが奔走するだけでなく、読者側も、どうして生き返ったのか?また話がわりとちょこちょこ飛ぶ箇所があり、え?なんで?何の意図があるんだろう!?何があった?とあちこちに散らばる空白を埋める作業を強いられます。…それが非常に楽しい☆

ワタクシは、わかりやすいものを読んでもあまり覚えておらず、その後の展開や、作者の意図をあれこれ推測しながら読むのが好きなんですよね。そういう意味で、読むに連れて好奇心がどんどんくすぐられ、続きが気になって仕方がない作品でした。

…まぁ、正確に言うと、iPadに読み上げてもらっていたので、ほとんど聞いていたという感じですが。

 

-印象的な部分-

まずは『伊勢物語』が出てくるシーン。…ちなみにワタクシは、文学部のときに『伊勢物語』についてのレポートを書いたことがあり、全部読んだだけでなく、あれこれ調べたことがあるので、愛着があります☆

作品中では、よく高校生向けの教科書や問題集にも掲載されている、惟喬親王(これたかのみこ)のエピソードが語られます。右馬頭(うまのかみ…在原業平を連想させる)がお仕え申し上げていた惟喬親王が、突然出家してしまう場面です。今までにも何度も読んだことがありましたが、この作品のストーリー展開からいくと、急に出来事の重みが変わってきました。

…若干ネタバレになりますが、この作品には、何度か自殺の場面が登場します。…NHKでのドラマでは、冒頭で「このドラマには自殺の描写があります」と明記されていたので、そのくらいはネタバレしてもいいことにしましょう。

話を戻して、自殺するというのも、計画的にそうする人もいるとは思うのですが、衝動的にというか、魔が差して急にそうしてしまう、というのもあるのではないかということに思い当たったんですよね。例えば、車を運転してても、一瞬気が遠くなるってこと、誰しも経験したことがあるのではないでしょうか?もしもその間に何かあったら、と考えると怖くありません?

そうやって、何かが突然変わる、ってことはありうるなぁ~と。

そしてもう一つは、文庫本の表紙にもなっている、ゴッホの自画像について語られる場面。…こちらは、ドラマの方では、若干描かれ方が違っていたので、ちょっと残念。

ゴッホは、自画像をたくさん書いたことで有名なのですが、それらを見ながら、どのゴッホが、どのゴッホの耳を切り落としたと思うか、という問いが投げかけられます。…そこで、平野さんが仰るところの「分人」という概念が登場します。

つまり自殺というのも、「分人」が別の「分人」を消し去ろうとする行為なのではないか、と。…ワタクシ的に、この「消す」という表現は、非常にツボにはまりました。ワタクシは、何かしら面倒なこと、嫌なことがあると、「消し去りたい」と思ってしまうタイプなのです。いやはや的確だ。となると、ワタクシが昔からずっと死にたいのも、ある「分人」が、ワタクシを消し去りたいと思っているからなのかな?ということになるのですが、そこはちょっと納得がいかないところがあるのです。

 

-分人-

人は誰でも、相手が誰なのかによって、見せる顔を変えます。でも、平野さんのいうところの分人は、表面だけを返るのではなく、根本から別の「分人」なのだそうです。

どうも、ワタクシ的にはそこがしっくりこないんですよね。何年か前に、センター試験の評論文で、キャラを演じ分けること、について書かれた文章があって、ワタクシ的にはそちらのほうが共感できます。ワタクシという人間は、もとは一つであるという認識が強いです。そして相手や状況に応じて、どの部分まで出すかを調整します。…それは、別の顔なのではなくて、どのくらいの深さまで見せるか、という違いです。

そもそも、ワタクシのSNSやブログをいつもご覧になっている方はおわかりかと思いますが、一つのアカウントで、いろんなネタを書くでしょ(笑)。ワタクシ的には、これは音楽関連のアカウント、これは勉強アカウント、とか使い分けるという発想がそもそもないんですよ。…だって、どれもワタクシだから(笑)。そしてむしろ、一人の人がいろんな面を見せてくれる方が、人間として興味がわきます。一面しかない、同じことしか言わない人は、リアル、Web上問わず、すぐ飽きてしまう(汗)。

ワタクシは、たとえ仕事をしていても、何かのきっかけさえあればすぐ趣味のこととかを話したりするし(笑)、まったく使い分けている気がしません。…だから、人付き合いに苦労するのかな(汗)。

ということで、実はこの作品を読んだあと、同じく「分人」が描かれている『ドーン』も読んだのですが、やっぱりしっくりこない。。。

 

-埋まらない空白-

実は何気に、先程しな~っと書きましたが、ワタクシは10歳の頃からずっと死を願っている人間です。ホントに、小学生の頃の生活がしんどすぎて、ワタクシの精神は10歳で死亡して、その後は老後を送っているという感覚です。…しかもその後、2度精神的な死を迎え、とどめを刺されまくっているので、もはや少しも生きていたくないと考える毎日です(苦笑)。

とか言いながら、死にたい、死にたいと言っている人間は、実はすぐには死なないと世間でも言われているように(笑)、一応仕事での責任があるから、自ら命を断つようなことは、今のところしていません。ただ、事故にでも遭わないかな~と日々思っていますし、少しでも無駄に時間があると死にたくなるから、大学に入学して、日々レポートの締切に追われる生活に、あえて自分を追い込んでいます。…法学部を選んだのは、死に際の法的手続きを学びたいというのもあります。

そんなワタクシですが、20歳を過ぎてから、祖母に子どもの頃の写真を見せられたときに、小学生の記憶が何もないことに気づいたという経験があります。おそらく、あまりに辛すぎるから消してしまいたい、という判断をしたんでしょうね、ホントに忘れていたのです。…今でもあんまり思い出せないし、思い出さないほうが幸せだと思うので、「満たす」つもりはありません。

という感じで、自殺のくだりが出てきてから、ワタクシ的に雲行きが怪しくなってきたのですが、作品終盤で「どんなにしあわせであっても疲れる」というくだりが出てきて、涙腺が崩壊しました。

そう、これを読んでた頃、結構忙しかったんですよ。でも、仕事はちゃんとしなきゃ、なだけじゃなく、推し活もちゃんとしなきゃ、というか、そちらは別にルーティーンになっていたので、無理にしていたわけじゃないんですけど、楽しくやっていたことが、急に楽しくなくなってしまって(汗)、どっと喪失感が押し寄せてきたのです。

…物理的に、この夏は、コロナのせいもあって、お仕事が飛ぶことが頻繁に発生して、そのたびに、準備が無駄になった、という喪失感を味わったり、3ヶ月ほど試験勉強していた資格試験の申し込みができなかったり、お気に入りのグラスを割ってしまったり、と、たまたまそういうことが続いていたから余計に、何だか凄くがっかりしてしまって、推し活に興味が持てなくなってしまったのです(空虚)。

一応、その後、とあるコンサートに行って、凄く感動して、一瞬その空白が満たされたのですが、次の日からはあっという間に現実に引き戻されて仕事に追われ、しかもその週は毎日のようにご飯を食べそこね、空腹感に苛まれたこともあって、すっかりまた枯渇状態に(汗)。

ということで、ヤバイ、この作品を読んだら、空白が満たされるどころか、空白だらけに(苦笑)。…この際、会社も辞めたくなってしまったので、明日言ってこようと思います(笑)。

 

-まとめ-

こんなにもワタクシのダメージを与えたという点で、評価は☆☆☆☆☆5つ!

素朴な疑問として、「死にたくない」とか「死ぬのが怖い」という意見をよく目にしますが、みなさんは生きて何をしたいのでしょうか?ワタクシは、別にしたいことなど何もないし、もう十分頑張ったし、この世に未練などこれっぽっちもないし、生きたいと思っている人に命をあげることができればいいのに、と考えているくらいです。

しかも、ドラマ版を見たら、余計に怖くて… 阿部サダヲさんの怪演が素晴らしすぎる!もう号泣しちゃって、猛烈に死にたくなりました。。。この小説を読んだorドラマを見た方で、「生きたい」と思う方はいらっしゃるのでしょうか?

ちなみに、ワタクシはラストシーンを見て、いいなぁ~っと思いました。ワタクシもあんな感じで消えたいです(笑)。でもちゃんと後始末をして、誰にも見つからないようにひっそりと消えたい… そのためには、どうしたらいいのかな?とずっと考えているのですが、何だかもう考えるのもめんどくさくなってきちゃいましたね(汗)。

でも今のワタクシは、受験生を何人も抱えているので、放っていくわけにはいきません。だから、しんどいけど、もうちょっと生きねば。そして、この感想を書いてしまわないと、ずっとワタクシの中でモヤモヤしちゃいそうだったから、やっと吐き出せてよかった(笑)。

 

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください